宇宙飛行
'22.02.24前澤友作氏が宇宙から帰還した。
宇宙ステーションでの歯磨き事情を紹介する動画も挙げられており興味深く拝見した。とてもコストが掛かった歯磨きだったに違いないが、その歯磨きはコンベンショナルなもので微笑ましくもあり、宇宙船生活が身近な風景として映った。
この映像を見ながら私はOblivionというSF映画を思い出していた。2013年ジョセフ・コシンスキー監督のアメリカ映画でトム・クルーズ扮する宇宙飛行士が人影途絶えた地球の静かな湖畔の小屋でレコードを聴くシーンがある。そこで流れるのがプロコル・ハルムの「青い影」だった。1967年リリースの全英No.1シングルとなった楽曲で作詞はキース・リード。様々な解釈が可能なこの歌詞を20歳前後で書いたことは驚きだが、彼の才能を見出し作詞専門のメンバーに据えて曲作りを開始した作曲者のゲイリー・ブルッカーとの間に化学反応が生じこの曲が世に出た。歌詞の内容は所謂男女関係のうつろいを表現したものとリードは言う。インタビュー記事(*1)の中で彼は歌詞とチョーサーの著作との関連性を問われそれを否定しているが、(当時曲のクレジットを巡って訴訟の渦中にあったから、著作権問題に辟易しこの様な返答をしたのではないかと個人的には思っている)別のBBCの記事(*2)では17世紀の詩人ジョン・ミルトンの詩の一節が歌詞の説明に引用されており、いかに聞き手の解釈を広げる歌詞であるかが窺い知れる。ミルトン繋がりで想像力を膨らませて聴くことをお許しいただけるならば、17世紀にメイフラワー号で新大陸へ渡ったピューリタンに思いが及ぶ。当時の彼らは宇宙へ移住の旅に出るような心持ちで出港したのではなかったか。あの時代新大陸への航海は宇宙飛行に匹敵する危険なもので、1度目の航海では乗船者の約半数が亡くなり、その後船が変わり同じくメイフラワー号と名付けられた2隻目は6度目の航海で消息を絶っている。
時は移りメイフラワー号は宇宙船に取って代わったが、我々は宗教的命題を抱えたままである。
参照
*1 Songfacts ”Keith Reid of Procol Harum” by Carl Wiser 2 Apr. 2009
*2 BBC NEWS colum “What is the light fandango?” 14 Nov. 2006
文: M